料理は一回ずつ作り方が違う
料理のレシピは非常に便利で、平均的な味を作るには効率がいいですね。しかし、それは本当においしい味を100点とすると、60点を取ろうという方法です。初めて料理を作る人には非常に便利ですが、プロの料理人は、その時々に応じて、最適な料理法でお客様に一番おいしい味を味わっていただけるように、修行をしています。中華だけでなく、プロの料理人にはレシピはなく、その時々にピッタリの料理法を体で覚えている訳です。 簡単だと思える野菜炒めでも一人前と四人前を作る時では調理時間も調味料の量も違っています。四人前だから四倍の調味料では味が濃すぎて食べられません。四人前では水分が多いせいでなかなか蒸発してくれずビショビショな仕上がりになりやすいのです。それをシャッキリ仕上げるためには厚底鍋を使い、空焚きの温度、炒める強い火加減、調理時間の最短化がプロの技です。では一人前を作るにはどうしたらいいのでしょうか? 一人前では一瞬に炒めて仕上げます。まごまごしていては焦げてしまいます。これが、その日の気温、天気、調理の時刻(ランチを11時半と1時半ではお客様の空腹度が違う)などを無意識で見て、調味料の量や鍋の空焚きの温度や火加減や調理時間を決めます。だから、同じ野菜炒めでも、一回ずつ調理法が違い、同じものは二つとしてない訳です。ロールキャベツのキャベツと餃子のキャベツでは、使う部位がまったく違いますし、餃子の豚肉と酢豚の豚肉では、部位がまったく違います。アップルパイのリンゴは何であってもいい訳ではありません。しかし、毎日旬のものばかり使えませんから別の物を当然使います。そうすると、レシピなどでは決められない組み合わせになり、野菜、魚、肉には季節によって水分量が違いから、作るときは料理人はその水分量を体で知っていて、最適な火加減と最適な調理時間で調理します。 家庭では厚底の鍋と薄底の鍋と使い分けはしません。万能鍋一つでなんでもやろうとします。しかし、均一に仕上げるには量が少なければ薄底鍋で手早く(時に水分を足してやる)、量が多ければ厚底鍋で火加減を最大に鍋を火から離さないようにします。中華では(あおり)と言う手法があります。鍋をあおって食材をひっくり返してあげる技術です。家庭では難しいかも知れません。野菜炒めを一例にとりましたが、食材は同じ白菜や豚肉と言っても一回ずつまったく品質の違った物です。食べる季節・時刻・天気にまったく同じものはありません。だから、簡単だと思える野菜炒めでも、一回ずつまったく違った作り方をしているんです。これを体で覚え、無意識にできるようになるためには、何十年もかかるんですね。
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